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#26 医療の未来をデータで変える!AIと連続データが生む“安心”のヘルスケア【ゲスト:株式会社テックドクター 代表取締役CEO 湊 和修さん】|Ayo! by Genesia.

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ジェネシア・ベンチャーズが配信する『Ayo! by Genesia.』は、スタートアップの“挑戦の裏側”に光をあてるPodcastです。プレスリリースなどのオフィシャルな情報だけでは伝えきれない、挑戦のプロセスで生まれる想いや葛藤、そしてリアルな学びを、起業家と投資家、それぞれの視点からお届けします。

「Ayo!」はインドネEシア語で「Come on!」「Let’s Go!」という意味。スタートアップのチャレンジをリアルにお届けしていきます。


今回のゲストは前回に引き続き、データ解析を強みにAI医療の実現を目指す、株式会社テックドクター 代表取締役CEOの湊 和修さん(以下:湊)と、ジェネシア・ベンチャーズの担当キャピタリストである相良 俊輔さん(以下:相良)です。 モデレーターは、同じくジェネシア・ベンチャーズの水谷が務めます。

目次

  • 最大の競合は「国民皆保険」。日本の未病ケアにインセンティブが働かない構造
  • 「病気になる前に戻りたい」。デジタルの価値は、疾患を治した“その先”にある
  • データは「安心」を提供できるか?利便性の裏にあるジレンマ
  • AIは「医師が作るもの」へ。医師のクローンで医療を届ける未来
  • 「イネーブラー」から「ドゥーアー」へ。テックドクターが描く次なる挑戦
左から:テックドクター 湊さん、ジェネシア・ベンチャーズ 鈴木(通りすがり)、相良(投資担当・inインド)

最大の競合は「国民皆保険」。日本の未病ケアにインセンティブが働かない構造

相良:日本の医療は整っている、優れていると言われている中で、公的保険の役割はすごく大きいですよね。大量の税金もつぎ込まれているので、政府のお金に支えられている面はあると思います。では、民間のプレイヤーとして、あるいはヘルステックのスタートアップとして、医療領域で何かしらのインパクトを残していこうと考えたときに、間接的なところも含めると、国民皆保険が競合となることも多いと思うんです。

社会医療費がこれだけ膨れ上がっているから、病気になる前の「未病」のフェーズでテクノロジーを活用して、患者さんが患者さんにならないケアをしていきましょう、という類のソリューションやビジネスアイデアは結構ありますよね。ただ、そこにおける最大の競合は何かというと、僕は国民皆保険だと思っています。金銭的な費用負担等も含めた、病気が顕在化することのリスクが他の先進諸国— 特に米国に比べて安すぎるがゆえに、自分の健康リスクを管理するインセンティブが働かないという構造があると。

そこに輪をかけて、人間が本来持っている“怠惰さ”がある。僕自身も含めて、人間はどこまでいっても怠惰だと思います。社会保障費が膨れ上がっていくというマクロの課題解決のために個人が未病のうちにきちんと健康を管理しようと言っても、毎日決まったタイミングで決まった行動を取ってログをアプリに残して・・と健康管理ができる人ってたぶんほとんどないですよね。だから、そのことを前提とした事業づくりができるかどうかが、この国のこの領域でビジネスをやる上では大事だと思っているんですが、湊さんがテックドクターとして心がけていることはありますか?

湊:あくまで一意見ですが、やはりアプリケーションにこだわりすぎると難しいところがあると思います。つまり、「患者さんのためになるものを作る」という志は、この領域をやる人にとって一番重要なポイントなんですが、「自分が作ったソリューションで患者さんを治す」ということにこだわりすぎると、起業家のエゴに陥りやすい。なぜなら、一般的にはみんな健康になりたいと思っていないからです。

相良:そうですね。

湊:以前、我々が運営している『AIと医療の関係研究所』で“AIを使った医療が進んだときに我々の生活がどうなるか”という試行実験をしました。究極的には、ウェアラブルデバイスなどで日頃のデータを個別に判断していくと、病気のリスクや病気になった後に生存確率を高める行動などもわかるようになる。でも、それでAIに健康管理を任せると、「お酒だめです」「タバコもだめです」「今日はこれだけ食べてください」「これ以上食べないでください」という統制モードに入っていくわけです。

相良:監視社会みたいになりますね。

湊:それに従えばもちろん健康になるし寿命は伸びるけど、それって幸せなんですか?という話になってくる。むしろ、そのAIの監視をどうすれば逸脱できるのかということのほうが重要になってくる。ここには非常に大きなジレンマがあると思っています。

「病気になる前に戻りたい」。デジタルの価値は、疾患を治した“その先”にある

湊:じゃあ、我々はどこにアプリケーションとしての価値を置くか― AIやデジタルを医療現場の中のどこで使うべきかを考える必要がある。つまり、デジタルがフィッティングのいい場所を、結構真剣に考える必要があるなと思っています。テックドクターとして考えているのは、病気を治した後のケアです。

みんな病気になった後に「病気になる前に戻りたい」と思うわけですよね。だけど、今の医療がやっていることは、あくまでも診断がついた疾患を治すことだけ。その人が病気になる前の生活に戻ったり社会にうまくフィットするようになったりするところまでは、究極的には、公的保険を使うという考えはないわけです。そこはデジタルがフィットする場所なんじゃないかと思っています。

相良:なるほど。

湊:私事ですが、先週、結構激しい手術を受けたんです。3日ぐらい吐き気と痛みがひどくて、一週間後に退院したときも、「本当にまた仕事ができるようになるのか」とか「前みたいに普通に生きていけるのか」ってすごく心配になりました。今でも自分がどれくらい元に戻っているのかわからない。

その点、テックドクターでは、内部的に「心拍回復力」— 運動したときに心拍数がどれぐらい上がったり下がったりするかというデータを取っていて、その指標を用いると、手術の前後で運動能力や心肺機能が戻っているかがわかるんです。それをもとに人をどうサポートするかはもちろんソリューションの話になりますが、そういったデータがあることで、病気が治った“その先”の復帰フェーズはデジタルのフィッティングがいい場所である可能性が高いと考えています。

データは「安心」を提供できるか?利便性の裏にあるジレンマ

相良:回復度をデータで測るという話がありましたが、データがもたらす社会的役割の一つに、僕は「安心」があるかなと思っているんです。利便性はもちろんですけど、それ以外に社会にもたらしている役割として「安心」があると。

例えば、僕は今インドのベンガルールに住んでいますが、2015年以前と2025年以降では、配車アプリを使えるか・使えないかという大きなBefore / Afterがありました。それって、ドライバーがどんな運転をしてきて、どんなスコアやレビューを持っている人かというデータが、安心材料として持てるかどうかということがあるわけです。タクシーに乗るという行為一つとっても、どれだけの安心度を伴って行えるかにデータは関わっている。これは医療においても同じだなと思うのですが、データを通じて安心を提供するというコンセプトは、湊さんとしてはどのように考えていますか?

湊:ヘルステックへの投資はこの数年多少冷え込んでいますが、ロンジェビティ(長寿)に関するヘルスケアへの投資は伸びているという話を聞いたことがあります。我々もデータを見ていると、連続的なデータから健康寿命的なものはある程度推測ができる。安心かどうかは分からないけども、リスクが高くなっているか低くなっているかは伝えることができると思っています。

ただ、やはり同じジレンマはあって、仮に安心度合いみたいなものが下がったときには逆に安心できなくなっちゃうので、統制せざるを得なくなる。「やっぱり昨日のお酒だめだったんだ」「唐揚げがだめだったんだ」みたいに。極論ですが、そういうことを望むのかというジレンマはあるかなと思っています。

相良:痛みと向き合うということも、データの使い方の一つですよね。痛いという状態がつらいのは、痛みそのものに伴うつらさはもちろんありますが、その痛みがどれくらい自身の健康において深刻なものなのか、また、それがどれくらい改善していっている途上のものなのかがわからないことが非常につらい。そこに対して、データはいい仕事をするんだろうなと。

湊:我慢する人も結構いるので、自分の痛みが定量的にどれぐらいかがわかることで乗り越えられるものはたしかにあるかもしれないですね。

AIは「医師が作るもの」へ。医師のクローンで医療を届ける未来

相良:データ医療を考える上では、お医者さんの働き方がAIの導入前後でどう変わるかをイメージするのもすごく大事ですよね。お医者さんに限らず、今のレベルのAIを現場で使いこなせる人がいたときに、短期的にはその人の業務量は減るどころか増えることもあり得るじゃないですか。医療で言うと、お医者さんがAIを使いこなすことによって患者さんにとっての便益は増幅する一方で、お医者さんのリソースを逼迫するというジレンマがあると思います。そこに対してのソリューションは、どのように検討されているんですか?

湊:数十兆円というコストをかけて質を上げてきた今の日本の医療を、どう投資に変えていくかというと、外装化していく必要があると考えています。日本の医師がやっている医療を、海外の患者さんにも同じように提供できるのであればいいじゃないですか。ここにAIを使うべきだと思っています。

相良:そうすると、極論かもしれませんが、AIが医師免許をつというような世界線もありますよね。ただそれは現実的な路線ではない?

湊:なので、今後AIは「医師が使うもの」から「医師が自分用に作るもの」になっていくんじゃないかと思っています。なぜかというと、自分の目の前の患者のデータや、自分の下した判断は、基本的にはその医師の権限である程度活用できるからです。自分の患者のために使うソリューションを自作する場合、実は医療機器の承認はいらないんですよ。なので、データに基づいて医師が自分のクローンを作ることができる可能性があるということです。

相良:作って使って、患者さんに届けるということですね。

湊:医師に直接相談するような機会のコストは世界中で相対的にめちゃくちゃ高くなってきていて、10年後には本当に超富裕層だけの体験になっている可能性があります。でも、自分が相談したい医師のAIクローンドクターがいたら、そこには10分の1のコストでリーチできる可能性がある、みたいな世界観です。

「イネーブラー」から「ドゥーアー」へ。テックドクターが描く次なる挑戦

水谷:お二人のお話をお伺いしていると、医療・ヘルスケア市場の大きな変化を改めて感じます。担当キャピタリストとしてこれまでテックドクターに伴走してきた相良さんから見て、今のテックドクターはその市場の変化にどう対応してきたか、そして今後に向けての期待があればお伺いしてもいいですか?

相良:初回投資をさせてもらったのが2021年の初頭だったので、もう5年前とかですね。当時、湊さんがピッチで言っていたのは、僕の前職であるトレジャーデータを引き合いに出して、「医療分野のトレジャーデータを作りたいんだ」ということでした。医療というバーティカル領域のデータ解析基盤というバーティカルSaaSプレイヤーの一社という感じだった5年前から、今はChatGPTモーメントを経て、AIやLLMがこれだけいろんなことができるようになり、当初からテックドクターが掲げてきた「点の医療を線の医療へ」という思いがよりリアルに語れるような状況になってきたなと思っています。

ここからより本格的に社会浸透をさせていく上では、規制や倫理の観点など、超えていかなければいけない構造的なハードルはありますが、その高い壁の向こうにはすごく大きなインパクトが待っているんじゃないかと、すごくワクワクしています。

水谷:僕らが初回投資をしたとき、ウェアラブルデバイスがどこまで普及し、それが医療にどこまで活用され得るのかという点には、一定のリスクがあったかと思いますが、相良さんには確信めいたところがすでにあったんですか?

相良:当時は、湊さんがおっしゃっていたように「データの解析を強みに」という言葉の通りでした。医療という分野で、時系列のログデータに代表されるような非構造化データの収集と分析— これをしっかりと要件を切って、収集から解析まで一気通貫でできるプレイヤー自体が少なかった。ここに希少性と強みの源泉があったんです。だから、わからないことやリスクも当然ありましたが、まずはやってみようという形で投資をしたのが2021年です。

でも今は、食わせるデータセットに独自性や優位性がないと仮定した場合、データ解析そのものにはもはや強みは宿らなくなっている。なので、ここから先は「データの解析を強みに」というところから、医療用語で言うところの「アウトカム」にいかによりバリュープロポジションを寄せていけるかという勝負に入ってきていると考えています。

その文脈で、いくつかの症例においてSaMD(Software as a Medical Device)の認可を取りに行こうという動きも直近出てきています。ホリゾンタルなデータ解析を強みにしたプレイヤーから、よりバーティカルに、どこまでも疾患や症例にスペシフィックな固有の価値を、自分たちでリスクを取りながら、あるいはアセットを持ちながらやっていけるか。医療業界における「イネーブラー」から「ドゥーアー」への進化ですね。難易度は上がっていますが、提供価値の最高到達点は高くなってきている印象なので、すごく楽しみです。

水谷:医療従事者や医療機関のオペレーションにいかにシームレスに組み込まれていく。そして、日常の生活の中で取れる私たちのデータが、よりシームレスに不調を教えてくれたり受診勧奨をしてくれたり、あるいはセルフメディケーションを推奨してくれたりする。また、フルマラソンのような大きなチャレンジを目指すときに、生活習慣のガイダンスやリコメンデーションが受けられるようになる。そんな、非常に未来感のあるヘルスケアの姿が実現されていくのかなと感じています。その基盤をテックドクターが形作っていると思うと、非常にワクワクしますね。

相良:最後に、湊さんからリスナーの皆さんに向けて届けたいメッセージがあればお願いします。

湊:テックドクターという会社よりも、まずはデジタルバイオマーカーや連続的なデータが、どういうふうに医療領域に価値を出せる可能性があるのかということを、多くの方にアジェンダとして持っていただけたら嬉しいです。我々スタートアップがチャレンジさせてもらっている前提として、不確実性がある環境の中で新しい仕組みをどう定義できるかということは重要だと思っています。特に医療領域においては、新しい姿・形がどうあるべきなのか、もっといろんな議論があるといいなと思っています。

相良:いろいろなアプローチでこの領域に関わっているプレイヤーは多いですもんね。ある部分では競合もしながら、業界の未来を一緒に形作っていく協力者として、みんなで大きな目線を持って取り組んでいけるといいですね。

水谷:2回にわたって、テックドクター湊さんとジェネシア・ベンチャーズ相良さんをお迎えしてお話を伺いました。非常にワクワクするお話をありがとうございました。

湊、相良:ありがとうございました。Ayo!

全編はPodcastでお楽しみください💁‍♂️💁:

湊さんとテックドクターのビジョンについても、あわせてご確認ください💁‍♂️💁:

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