
#25 データが変える医療の未来!ウェアラブルデバイスとAIが拓く患者中心のヘルスケア【ゲスト:株式会社テックドクター 代表取締役CEO 湊 和修さん】|Ayo! by Genesia.
ジェネシア・ベンチャーズが配信する『Ayo! by Genesia.』は、スタートアップの“挑戦の裏側”に光をあてるPodcastです。プレスリリースなどのオフィシャルな情報だけでは伝えきれない、挑戦のプロセスで生まれる想いや葛藤、そしてリアルな学びを、起業家と投資家、それぞれの視点からお届けします。
「Ayo!」はインドネシア語で「Come on!」「Let’s Go!」という意味。スタートアップのチャレンジをリアルにお届けしていきます💁♂️💁
今回のゲストは、データ解析を強みにAI医療の実現を目指す、株式会社テックドクター 代表取締役CEOの湊 和修さん(以下:湊)と、ジェネシア・ベンチャーズの担当キャピタリストである相良 俊輔さん(以下:相良)です。 モデレーターは、同じくジェネシア・ベンチャーズの水谷が務めます。
目次
- 「痛みや辛さもわかり合える」未来— 創業の原体験
- デバイスの進化とデータ活用の現在地
- AIが実現する、専門的な知見へのアクセス
- 連続的なデータが鍵となる「デジタルバイオマーカー」
- 日本発の医療データが持つグローバルな可能性

「痛みや辛さもわかり合える」未来— 創業の原体験
水谷:今回のテーマは、「データが変える医療の未来」です。まずはゲストの湊さんから自己紹介をお願いします。
湊:テックドクターの湊と申します。当社は2019年に創業した大学発ベンチャーです。ウェアラブルデバイス等から取得する、患者さんの疾患の状態や快復の程度といったデータを「デジタルバイオマーカー」と呼んでいますが、それを活用したソリューションを様々なパートナーさんと一緒に開発しています。
水谷:湊さんご自身のこともぜひ教えてください。
湊:私自身は、もともと20-30年ほどアドテク業界におり、データを活用した新規事業の立ち上げなど、ずっとデータを使った事業に携わってきました。そうしていろいろなデータを見ていく中で、データというのは一見無機質で冷たいものに感じられるけれど、例えばウェアラブルデバイス等で取得できるそれは、人の状態をよくよく見るためにも活用できるのではないかと考えました。日々の変化— 体調もそうですし、辛さや落ち込みといった精神的な状態なども見えてくるのではないかと。そうしてデータを活用することで、人と人がもっと分かり合える世界を目指せるんじゃないかと考えたのが創業のきっかけです。当時ちょうど、自分の親族が大病を患っていたのですが、その痛みを全くわかってあげられなかったなという経験も大きかったです。病気の治癒も大事ですが、痛みや辛さをわかってあげることもきっと同じくらい大事なこと。自分が仕事で扱っているデータが、そういったところに活かせるんじゃないかと思ったんです。
デバイスの進化とデータ活用の現在地
水谷:ちなみに、湊さんは何のウェアラブルデバイスを身につけていらっしゃるんですか?
湊:僕は、Apple WatchとFitbitだけ。社内にはOura Ringや他のウェアラブルデバイスをつけているメンバーもいて、日々自分たちで検証していますね。
水谷:右腕と左腕で異なるウェアラブルを着用されていますが、機器によって取れるデータの差分や若干のズレはあったりするものなんですか?
湊:デバイスによって粒度が全然違います。データ取得のタイミング・頻度、データ取得できる条件・できない条件などが結構違うので、自分たちで使用・検証して、実際にその結果を論文にして学会で発表したりもしています。
水谷:寝ている時もつけているんですか?
湊:つけています。
水谷:例えばアルコールを摂取した後の睡眠データは、していない時と比べると全然違うと聞きますが、そういう比較もするんですか?
湊:如実に違いますよね。お酒を飲んだ後は、特に心拍数が上がります。水谷さんくらいの年齢の方だと、寝ている時の平均心拍数は1分間に50-60くらいですが、お酒を飲むと80くらいになる時もあります。
相良:僕も一時期Oura Ringをつけていたんですが、やめてしまった理由もまさにそこです。お酒を飲んだ後の睡眠スコアが悪くなる、という事実を把握すること以上の深掘りができなくて、つけていてもいなくても変わらないかなと思ってしまいました。
デバイスの進化の方向性としては、一つは微小化・微細化。デバイスをつけている感覚なく勝手にバイタルデータが吸い上げられていく状態が作れたらブレイクスルーになるだろうと思います。もう一つはエージェント化。自分のパーソナルヘルスエージェントが、あらゆるデータセットを集約して最適化したヘルスレポートを上げてくれるとか。そこまで行くと、自分の日常に落とし込めるんだろうなと感じています。
水谷:湊さんがテックドクターを創業した2019年から現在(2026年)に至るまで、ウェアラブルデバイスもかなり進化してきたと思いますが、今後の進化の方向性についてはどう見られていますか?
湊:創業当初は、ほとんどのドクターや研究所が「おもちゃだよね」「全然信用できないよね」と言っていました。でも、この5-6年で相当精度が上がってきて、実際に研究で使われるケースも増えています。アメリカのDIMEという組織では、ウェアラブルデバイスを指標(エンドポイント)として治験に使った事例はもう500以上になってきています。
さらに、僕たちが国内の医師向けに取ったアンケートでも、「スマートウォッチ外来」や「アップルウォッチ外来」を標榜している医師はすでに5%くらいいて、標榜はしていなくても普段から補助として使っている人も含めると15%くらいになります。そして、「使ってみたい」という方も含めると、もう70%はポジティブな状態です。健康な人にとっての得はまだあまりないかもしれませんが、病気になったりリスクがあったりした時に、患者が医師に状況を伝えるためのツールとして活用が進んできているんだろうなと思っています。
水谷:何かしら疾患がある時に、通院と通院の間の過ごし方についてウェアラブルデバイスのデータを起点に医療従事者とコミュニケーションしていく、ということが日本でもかなり実践されてきている。それがこの数年の大きな変化ということですね。
湊:そうですね。さらに最近、GoogleがFitbitにAI機能をつけました。「AIコーチ」という機能で、例えば「三ヶ月後にフルマラソンを走りたい」と相談すると、心拍数などに応じてアドバイスしてくれます。入院していない患者さんたちの状況を把握するためには、遠隔モニタリングが一つの市場として出てくるでしょうし、今後はパッチ式のデバイスなどもっと手軽に身につけられるものも増えてくると思います。
AIが実現する、専門的な知見へのアクセス
水谷:医療業界は他の業界と比較してデジタル化やデータ活用が遅れている印象がありましたが、この数年で一気に変わってきているという理解で合っていますか?
湊:全体感としては、まだまだ遅いというのが正直なところですが、こういうものに対してよりポジティブに使っていこうという医師がかなり増えてきている印象です。先日、私たちは患者側の意識調査を実施しました。その結果、医師の前にAIに相談する人が全体で20%近くいたんです。若い人だけかと思ったら、むしろ一番多いのは40代と60代。おそらくはChatGPT等に、「どこどこが腫れたんだけど、どういうこと?」とか「喉が痛くて熱も出ていて、どうすればいい?」といったことを聞いているんです。そして、その結果を「医師と同じぐらい信頼できる」と答えている人が相当数いる。そうなると医師側も変わらざるを得なくて、キャッチアップしていこうという人は増えてきている印象です。
水谷:私自身も処方された薬について、セカンドオピニオンをAIに求めることが増えてきました。薬局での待ち時間に処方箋をカメラで撮って聞いてみたり。自分のリテラシーが上がっている感覚があって、すごくおもしろいですね。
相良:僕はむしろ、AIにファーストオピニオンを担ってもらって、医師がセカンドオピニオンをくれるという時系列になることも多いですね。例えば、子どもの赤い腫れ物を写真に撮ってAIに聞いて、「こんな病状ですね」「こんな薬を頼むといいですよ」「病院に行く深刻度はこれぐらいですよ」といった返信を参考にしてから病院にかかる。そして、お医者さんが同じことを言うかと、ある種のセカンドオピニオンとして聞いています。
水谷:どこまでをAIに相談して医療行為として活用するのかは法的な判断も大きいですが、専門的な知見へのアクセスハードルが一気に下がってきているのは歓迎すべきところだと思います。一方で、リスクとして捉えなければいけないこともありますね。
連続的なデータが鍵となる「デジタルバイオマーカー」
水谷:ウェアラブルデバイスが普及し、医療現場でも使われるほど信頼性が上がってきているとのことですが、例えば心拍数だけでもデータ量は膨大になると思います。日常生活から取れる患者さんの膨大なデータを、医療機関のお医者さんはどのように活用し得るのでしょうか?
湊:心拍数だけでも一日に10万回以上、睡眠や歩数なども合わせると数十万というデータ量になります。ただ、重要なのはデータの量ではなく、「連続的なデータである」ということです。連続的であることが、患者さんの変化の良し悪しを判断する上で大事なんです。これまでの医療データ― 例えばレセプトやカルテ、診療データ等は、基本的には「点」のデータです。健康診断で測定した値も、あくまで一時点の情報しか表していません。本来は日内変動もあれば月ごとの周期的な変化もあるのにです。だから、患者さんの本当の意味でのペーシェントジャーニーを捉えるには、連続的なデータが絶対に必要です。
ただ、データが増えると医師は大変になるだけです。そこで我々は、「デジタルバイオマーカー」という基準を設けて、ソリューションの開発をしています。全てのデータを医師が見るのは無理なので、変化や周期性がどういう値の時にこの病気はどう悪化しているのかということを可視化する研究です。おそらくアジアではうちが一番やってると思います。例えば、リウマチという病気では、患者さんはいつ関節が痛くなるか予測できません。しかし、連続的なデータから病状の悪化をある程度モニタリングできれば、管理の仕方や薬剤の評価も変わってくるよねということです。
水谷:究極のパーソナライズがデータを起点に進んでいくんですね。「痛い」が顕在化する前に予測していく。そのデータ解析基盤を開発していることと、実際にデータを取得しているという点で、テックドクターがアジアのフロントランナーであるということが改めてわかりましたし、非常にわくわくしています。
湊:この領域は、AIとの相性がすごくいいはずなんです。歩数や心拍数のレポートがより簡単に出せることはもちろん、例えばリウマチ系の病気がどうなっているかを判断させるためには、何かしらの指標を明確にする必要があります。その基準を決める上で、先ほどの連続的なデータが非常に価値を持ってくると考えています。
日本発の医療データが持つグローバルな可能性
水谷:医療データを扱うことの難しさはどういったところにあるでしょうか?
湊:医療データを扱うことは、案外難しい話ではないと思っています。もちろん、ガイドラインに準拠しなければいけないとか、開発的に手間がかかる部分はありますが、むしろそういうものをなんとなくハードルに感じて、取り組まない人の方が多い気がします。
水谷:セキュリティ面や、臨床でどこまでデータオリエンテッドな介入をしていくかなど、ハードルは一定高いのではないかなと想像しますが、そのイメージによってプレイヤーの数が増えていかないという状況なのでしょうか?
湊:皆さんがおっしゃっているのは、例えば電子カルテベンダーがカルテのデータをブロックしている(だから参入しづらい)といった話だと思います。たしかにそこにコストをかけて対峙するのは大変ですが、患者中心の医療データと考えると、彼らがブロックしていないものもいっぱいあります。
水谷:日本発だからこそ、アジアやグローバルにおいて意味のある取り組みができるという「医療×AI」の勝ち筋は見出せるものでしょうか?
湊:私が言うまでもなく、医療領域は日本がまだ強い領域の一つだと思っています。根本的に、年間40-48兆円の医療費が投下されている状況をコストと見るか投資として見るかですが、とにもかくにもそれで日本の素晴らしい医療が実現されているわけです。そして、これを日本の投資として考えた時に、この資産をどう外に展開していくかと考えることもできるんじゃないかと思っています。それくらい、日本の医療はめちゃめちゃお金をかけていて、クオリティが高く、平準化されていて、かつ基本的には全国で同じプロトコルで提供されているということです。
水谷:話が盛り上がってきたところで恐縮ですが、続きはまた後編で伺いたいと思います。
湊・相良:次回もよろしくお願いします!Ayo!
全編はPodcastでお楽しみください💁♂️💁:
湊さんとテックドクターのビジョンについても、あわせてご確認ください💁♂️💁:


